北越コーポレーションが段ボール原紙事業に参入した。新潟工場の6号機マシンを転抄し、年産13万トンの中芯マシンに改造。今年4月より営業生産をスタートした。洋紙の生産比率が高い同社は、近年、他品種への生産シフトやグローバル展開を加速させてきた。国内では比較的成長の見込める段ボール原紙事業に新たに参入し、新規事業への転換も進めている。また洋紙で培った輸出競争力を活かし、中国向けを中心に輸出も柔軟に対応していく。コロナ禍で逆風の船出となったが、今後の中芯の出荷目標や古紙調達の方向性などを探った。
6号機による生産・出荷は、新型コロナの影響をもろに受ける結果となったようだ。今年2月末に転抄工事を完了し、試作品を完成させた。3月から顧客である段ボールメーカーへテスト品の納入を本格化。初の製品出荷が4月となった。その後、生産・販売は増えてきたものの、当初の想定を若干下回っている。
全国段ボール工業組合連合会によると、4月から5月にかけて段ボールの出荷が顕著に落ちた。4月は対前年比91%、5月は同比86%だった。特に工業部品関係が厳しい。ここ数年、生産が101~102%で推移していたので、段ボールメーカーも「北越の原紙も少し使ってみようか」という感触だった。それが、コロナ禍を受けて、「稼働率が上がらないのでもう少し待って欲しい」という反応に変わった。
同社を含めた段ボール原紙の増産ラッシュが相次ぎ、市況の軟化傾向も危惧された。現況の段原紙価格を大半のメーカーが守っている中で、「当社が参入したことで、市況が崩れたと言われたくない」と関本修司営業推進本部長兼物流企画部長は強調する。「安売りはしない」ことを信条に販路拡大に動いており、それは価格提示のタイミングにも表れていた。新年度の価格交渉が行われる3月時点ではあえて価格を提示せず、初めてユーザーに価格を提示したのが4月10日。価格交渉のタイミングも慎重を期した。
現時点の中芯の販売先は20社弱だ。新潟県内のほか、近隣他県のユーザーに出荷している。この中には一貫メーカーも含まれる。また国内販売は基本的に直販を目指す。つまり代理店や卸商社を通さず、ユーザーである段ボールメーカーに直接販売する方式だ。すでに現在、8割が直販によるもの。メーカーが段原紙を直販することは珍しく、商社など外部から人材を招聘することで営業体制を強化している。代理店や商社を通さないことは、3~4%といわれる口銭を含めた流通経費の圧縮にもつながり、競争力を発揮する狙いもある。
今後は、「地産地消」を目指し、できるだけ地場の販売先のパイプを太くしていく方針だ。下期には月間生産量は5000トンプラスαを目指す。ただし国内需要は、V字回復とまではいかないと予想している。販売先の拡大は、一貫メーカーがあえて手掛ける分野ではなく、オーナー系の段ボールメーカーが対象となる。そのため、他の専抄段原紙メーカーが競合相手となってきそうだ。段ボールメーカーからの期待感も感じているが、緊急事態宣言の発令中は社内的に県外移動をNGとしていたので、販路拡大にも十分動けなかった。直販であれば、オーナーと直接話をして、交渉できることが強みだ。
今後、競争の激しい名古屋や大阪エリアへの出荷は予定しておらず、販売先への物流コストや地域的な相場変動も考慮する。段ボール原紙は国内販売が第一だが、稼働益を確保するためにも、輸出も柔軟に対応していく考え。7月で数100トンの輸出実績があった。輸出先は中国向けである。
輸出は、メーカーとして直接貿易(直貿)できることも強みだ。中国は江門造紙があることで原地駐在所の機能も果たす。ベトナムにも駐在所があり、販路を確保する。貿易事務に関しても、外部から人材を登用し、貿易事務を支えている。将来的に稼働率が上がってきたときの段原紙の輸出比率は、2~3割を想定している。
新潟工場からの輸出は、工場内でバンニングできる設備を設け、競争力を備えている。半期ごとにフォワーダー4社で海上運賃を入札し、また提携の保険会社を使うなどコストも圧縮している。塗工紙で月間最大2万5000トンを海外輸出した実績もある。
6号機マシンで生産する中芯は、品種が普通芯、強化芯の2品種。米坪量が115g/平米、120g/平米、160g/平米の3種類。現在、生産しているのは普通芯だが、サイズ材を内添した160g/平米の強化芯も生産可能としている。単層抄きで抄紙速度が450メートル/分、抄紙幅が5150ミリである。段ボール古紙100%で製造しているので、中芯にしてはチリがほとんどない。供給先の段ボールメーカーから、「きれいで強い」との評価も受けている。
今後の追加投資も当然、視野に入れている。2023年までの中期経営計画の中で、700億円の戦略投資を見込むのも、その一部が含まれる。
原料である古紙は、新潟エリアだけで消費量の3割程度を調達するなど原料調達も地域に密着した取り組みを進め、不足する分を関東エリアから賄っていく。また、新潟から隅田川(東京)までコンテナ列車が走っており、同社では製品出荷のモーダルシフトを進めてきたが、古紙調達でもこのコンテナ列車を積極活用する。同沿線上に集荷倉庫を設けて、製品を下ろした帰り荷に古紙をコンテナに積み込み、新潟工場まで配送する構想もある。
古紙の購買については、グループ会社の北越マテリアルが千葉県市川市で古紙ヤードを運営してきた。年間7万トンの扱い量があり、回収業者からの仕入れ相場や他社メーカーの調達価格についても熟知しており、相場に見合った価格で適正に調達していくという。
なお、物流面でコンテナ列車へのモーダルシフトはドライバー不足に対応した面もあるが、コスト削減やCO2削減にもつながるため、一般社団法人日本物流団体連合会が主催する第21回物流環境大賞で「物流環境保全活動賞」を6月に受賞したばかりでもある。
新潟工場で古紙の消費量が増えることにより、ペーパースラッジなどの発生も増えるとみられるが、現時点でボイラーの使用燃料の変動は予定していない。新潟工場のエネルギーソースは、黒液回収が65%、木くず・RPFなどが9%と、CO2ゼロカウントのエネルギーが7割を超えている。バイオマスボイラーは2007年に導入したもので、燃料使用量は、木くずが5万トン/年、RPFが3万5000トン/年となっている。
同社による製品1トンあたりのCO2排出量の低さは業界トップクラス。2018年度で業界平均の約半分となる348キローCO2/紙トンだった。全工場において石炭ボイラーは1台もないため、経産省が打ち出した2030年までに非効率な石炭発電設備を廃止する方針の影響も一切受けないという。
洋紙の生産比率が高い同社は、市場縮小から新事業への転換を推し進め、いかに事業領域を変えていくかが課題であった。2012年のフランスの特殊紙メーカーであるデュマ社の買収、2015年のカナダのパルプメーカーであるアルパック社の買収など、海外では多角的に事業を展開。中国広東省にも2014年から白板紙工場の江門星輝造紙を構えており、2019年3月期の海外売上比率は35%に達した。
国内において段原紙生産に進出したのは、他の品種に比べて、成長性が見込めたため。だが段ボールの需要も、やがて人口減を迎えれば減っていくことは避けられない。その中で、①段ボールは他の品種に比べれば減り方が小さい、②新潟工場での生産が縮小するにつれて雇用を確保するため、③中国で古紙の輸入禁止となり輸入原紙の需要が増えることが背景にあった。
同社は1907年、新潟の長岡で稲わらを原料にした「黄板」の生産を始めた、板紙発祥のメーカーともいわれる。製紙メーカーの中では三菱製紙に次いで長い113年の歴史をもつ。同社の原点でもある新潟で段原紙事業に着手し、再び原点回帰することになった。
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