昨年末、いくつかの古紙問屋に、紙上で親子対談が出来ないか打診してみたところ、脆くも断られた。親子関係、事業ともに順風にみえる問屋にお願いしたのだが、第三者にはうかがい知れぬ機微に触れることもあるのだろう。いかにスムーズな事業承継を行えるかは、これからの問屋経営のカギであり、成功事例からファミリービジネスのあり方に対する問いかけになればと期待したのだが。
世代を跨ぎ、親子で作家として活躍してきた故新田次郎と藤原正彦がいる。新田次郎は山岳小説の名手で、精緻な自然描写に特色があった。藤原正彦は本業が数学者であるが、米国と英国の大学でも教鞭をとった経験から、グローバルな視点を織り込んだ骨太なエッセーに定評がある。両者とも個人的にファンなのだが、圧巻なのが親子二代で書き継いだ小説の「孤愁(サウダーデ)」。外交官の視点から日本人の美徳に迫った話で、父の絶筆を藤原が完成させたという大作だ。こうした親子で描き継いだ小説は他に類をみないという。
家族経営もある意味で先代の軌跡をなぞりつつ、新たなページを綴じていくようなもの。先祖への愛惜と未来への憧憬が原動力となっていくのではないか。
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