2020年12月13日 古紙ジャーナル記事 

古紙リサイクル 基本の「き」

古紙ヤードの役割と機能

 全国には約2000ヵ所もの古紙ヤードがあるわけですが、各ヤードで買取、計量、選別、梱包、出荷、在庫といった機能を備えており、古紙の流通において大きな役割を担っています。日本の古紙のリサイクルにおいて、欠かせない存在といっても過言ではありません。

 古紙ヤードのもっとも大きな機能は、プレス品に規格化する工程にあります。家庭やオフィスなどから出された少量の古紙が、古紙ヤードに集められます。ベーラー(プレス機)に投入したバラ状の古紙は、油圧で圧縮され、荷崩れしないように番線(ばんせん)3~4本で巻き付けられます。高さ1メートル×幅1メートル×長さ1.8メートル、重さ約1トンの立方体の塊となって商品化されるのです。このプレスした古紙を国内であればトラックに積み込み、海外であればコンテナに積んで出荷します。輸送効率や倉庫内のハンドリングの面からプレス品の規格化が欠かせず、バラ状のまま荷受けしている製紙工場はほぼありません。

 古紙ヤードには、このベーラーとともにトラックスケールの2つが最低限の設備といえるでしょう。トラックスケール(台貫)とは鉄板の上で車両ごと重量を計量できる大きな秤のことです。この計量にもとづき仕入れ・販売を管理しています。古紙ヤードは、この計量と構内作業が要るため、少なくても2~3名以上で運営されています。

 他に古紙ヤードの大切な機能としては、選別と在庫が挙げられます。選別というのは、古紙のリサイクルに向かない禁忌品と呼ばれる異物を選別ラインや置き場で取り除くことです。また在庫というのは、製紙工場や海外市場の需要には変動がありますので、工場内にプレス品をストックし、需給を調整する役割を果たします。全国の日本国内の古紙ヤードの在庫能力は計30万~40万トンといわれています。ただ、3カ月以上も在庫すると、古紙がカビたり劣化することがありますので、在庫ポジションは常に低位というのが、古紙ヤード経営の定石です。

 基本形の古紙ヤード以外にも、機密書類のシュレッダーを併設するクローズ型だったり、鉄スクラップや廃プラなどを扱う総合的なリサイクルヤードとなっていたり、様々なタイプの古紙ヤードが全国に立地しています。

古紙の主要な品種と禁忌品

 古紙の種類は、大きく「裾物古紙」と「上物古紙」に分けられます。裾物古紙とは、新聞、段ボール、雑誌の主要3品種のことを指します。主に家庭やオフィスで使われた後、排出されるもっとも身近な古紙です。上物は、印刷工場や製本工場などから出た上質紙・アート紙の切れ端、他に使用済みのコピー用紙などが混ざったオフィスパックなどの総称です。裾物古紙に比べて、白いものが多かったり、均一性が高かったりしますが、近年のペーパーレスから発生は減る傾向にあります。なお、古紙再生促進センターでは、古紙の統計分類上、9品目23銘柄を定めています。

 古紙の品種によって用途もほぼ決まっています。段ボール古紙は段ボール原紙に利用され、新聞古紙は新聞用紙や印刷用紙に生まれ変わり、雑誌古紙は白板紙、上物古紙はトイレットペーパーのそれぞれの原料になっています。いまや段ボール古紙が古紙回収量全体の半分近くを占めており、多くの古紙ヤードで扱う主要品種になっています。

 どの古紙品種についても共通して言えるのが、日本の古紙品質は非常に高いということです。それは、家庭や事業所、工場などの排出元で初期分別がしっかりしているからです。欧米の先進国を含めた海外では、シングルストリームといって、他の再生資源と一緒くたに回収される方式が一般的です。回収された後、MRFと呼ばれる大がかりな選別施設で再生資源の品目ごとに選別するので、その過程で、ガラスや鉄、汚れなどが付着しやすくなるのです。

 日本でも古紙に混ぜてはならない異物を「禁忌品」として定め、混入しないよう呼び掛けています。再利用できる古紙と紛らわしく、また製品に深刻なダメージを与える四大禁忌品として挙げられるのが、①感熱性発泡紙、②昇華転写紙、③臭いのついた紙、④その他異物です。①は点字に使われる紙、②は布地にインク転写する際に使われる紙、③は洗剤や食品が付着した紙のことです。④その他では、ロウ引き段ボールと呼ばれる、ワックスを表面に塗布した段ボールが輸入果物の梱包に使われた後、混入するケースが増えています。

 製紙工場での水際対策、回収現場での分別強化も図られていますが、各古紙ヤードでの選別除去の徹底が求められています。

古紙ヤードに絡む3つの価格

 古紙ヤードでは利益をどうやって生み出しているのでしょうか?それは「仕入値」と「売り値」の差額から、古紙ヤードでの加工費を差し引いて残ったのが利益です。加工費には、古紙ヤードでのベーラーによる圧縮加工費、人件費、土地建物の管理費、金利などが含まれ、5~6円/キロとされています。古紙問屋の利幅が決して厚くないことは、大企業が古紙事業に参入してこないことからも分かります。

 まず商品である古紙を仕入れる際の「仕入れ値」があります。古紙の仕入れとは、ヤードへ持ち込む回収業者からの買い取りや、スーパーや倉庫などの排出元から直接買い取る場合もあります。自治体が家庭から集めた古紙を、随意契約や入札を通じて仕入れることあります。

 そして最終的に国内外の製紙メーカーに販売するときの「売り値」があります。売り値には、比較的オーダーの数量や価格が安定している国内メーカーへの販売価格と、需要が不安定で価格の乱高下も激しい海外メーカー向けの輸出価格の2つがあります。では、問屋が自由に売り先を選べるかというと、国内メーカーの新規開拓は容易ではありませんでした。製紙メーカー各社は、系列ともいえる直納問屋と称した問屋会を結成するなど、両者は厚い信頼関係で結ばれてきたのです。直納に納める二次問屋を代納と呼んできましたが、その垣根は段々と薄れてきたともいえます。

 地域差もありますが一般的な古紙問屋における国内向け:輸出向けの販売比率は8:2とみられます。平均的な売り値はこの比率に販売価格をかけて算出できるでしょう。

 問屋に旨味があるのは、売り値の変動にともなって利幅が広がる場面があることでしょう。しかし、国内メーカーの売り値は安定していて、頻繁には動きません。一方の海外メーカーへの売り値は乱高下が激しく、特に中国の旺盛な需要によって、頻繁に高騰する場面が起きました。仕入れ値の反映までにタイムラグがあるので、利幅が大きく広がったわけです。この20年間は、海外との古紙争奪戦によって国内メーカーの価格も揺さぶられてきました。売り値の上昇局面が続き、古紙問屋が儲かった時代といえるでしょう。しかし、中国の古紙輸入規制によって環境は一変。古紙バブルもついに終焉を迎えることになりました。

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専ら物の位置づけ、逆有償回収とは?

 古紙を収集したり、古紙ヤードを設置したりする際に、法律上の特別な許可は必要なのでしょうか?実は廃棄物処理法で、古紙のほか、くず鉄、空き瓶類、古繊維の4品目は「専ら再生利用の目的となる廃棄物」、通称「専ら物」と位置づけられており、収集運搬にあたっての許認可は不要です。古紙ヤードの開設にあたっても、同様に許可は要りません。

 もともと古紙は再生利用されることを前提に流通し、有価で取り引きされることもあって、特例的な扱いになっているのです。かつてトラック1台でチリ紙交換を始める方が多かったのは、こうした法律上の縛りが緩いこともあるのでしょう。一方で許可が要らないことから、自治体と契約のない「持ち去り業者」が集積場所から勝手に古紙を持ち去ってしまう弊害も起きています。

 「専ら物」である古紙も、逆有償になったときには、取り扱いの注意が必要になります。逆有償というのは、排出元からお金を貰って収集を請け負う取引のことです。この場合、廃棄物と同じく処理委託契約となってきます。

 例えば、機密書類は、排出先から処理費を徴取して請け負うことが大半です。しかし、この場合も過去に政府から通達が出され、「専ら物」の古紙として収集することは問題ないとされています。ただし、古紙ヤードに破砕設備を入れる際には、能力によっては許可が必要な場合があります。

 またスーパーなど小売店や物流倉庫から引き取る場合でも、古紙を買い取ることが多かったのですが、最近では長引く市況低迷や人件費のコストアップから逆有償回収が増えました。排出量が少なく収集頻度の多い発生元などに対して、収集コストの応分の負担を求めるというわけです。古紙市況が好調で売れるときには仕入れ競争となりますが、市況の低迷期には逆有償取引へ切り替えるような柔軟な対応力も、古紙問屋の競争力となっているのです。

 逆有償回収のルーツは、2000年頃のスクラップ問屋の旋盤の削りクズに処理費用を求めたことが始まりとされています。この取引慣習を古紙業界でも取り入れ、当時は売れなかった雑誌古紙の引き取りで広がりました。今ふたたび輸出市場の変調によって、雑誌古紙の余剰化が懸念される事態に直面しています。

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