
特別背任罪から約9年。井川意高氏の「溶ける 再び」が出版された。前著は内省的な記述に好感ももてたが、今回は放蕩・浪費癖を開けっぴろげに披露し、行間に怨嗟の念が滲んでいる。カジノ巨額借入れ事件の陰で、佐光一派が創業家排除を画策していたというのだ。この新刊書は、社内クーデターの詳細な見立てを白日に晒し、糾弾することが目的にあったようだ。
▼2日後に開かれた大王製紙の株主総会。佐光会長は株主の信任が得られないとして取締役再任の議案を撤回。21年度に過去最高益に導き、将来的に売上1兆円も視野に入った。盤石な体制を築いたことは間違いない。退いた氏を同社は名誉顧問に据えた。創業家の意を汲む北越コーポの他、どの株主に反対意志があったか不明だが、ともかく同書の狙いが当たったわけだ。
▼前著では「シャバに出てきてからは、清新な気持ちで新しい仕事を始めたい」と再起を誓っていたのに「このうえやりたいことは、美しい女性と毎日好きなだけ酒を飲むことくらいだ」と堕している。出所後の世間の冷たい風が染みたのか、父・高雄氏の逝去で精神的支柱を失ったのか知る由もないが、変節が気にかかる。創業家として今の業績をどう評するのか、気鋭の新ビジネスも聞いてみたかった。
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