2017年8月21日 オピニオン » 1242号

日本実業界の父・渋沢栄一氏の論語本を推奨

 不定期でおすすめ本を紹介していく。1般紙におすすめ本の紹介や書評欄があるが、その古紙ジャーナル版として紹介していきたい。

 第1回目に取り上げるのは、「渋沢栄1論語の読み方、竹内均編」と「渋沢栄一論語と算盤(現代語訳)、守屋淳訳」の2冊。
 論語は、紀元前500年前後の中国春秋時代、思想家の孔子の言葉や、その弟子達との問答をまとめたもので、儒教の主要経典として中国伝統思想の根幹となっている。

 以前、コラムで取り上げたことがあるが、数年前から論語に興味を持ち始め、様々な論語に関する本を読んでいる。最近では現代語訳やダイジェスト版が多く出版されているので、昔よりも垣根が低く、非常に読みやすい。
 幕末から明治・大正・昭和を生きた渋沢栄一氏は、王子製紙の創業者として有名だが、氏の生き様や思想を知ることは、非常に興味深い。日本実業界の父、日本資本主義の父とも言われ、約500社の会社設立に関わると共に、約600もの社会公共事業の設立に関わった。代表的なものだけでも、王子製紙をはじめとして、日本銀行、三井銀行、日本郵船、東洋紡績、大阪瓦斯、帝国ホテル、東京電力、東京製綱、清水建設、日本鉄道、東京大学、早稲田大学、東京株式取引所、理化学研究所、商工会議所、日本赤十字社等、様々な分野に渡っている。

 2001年に発行された王子製紙社史の冒頭には、こう記されている。「渋沢氏のこれらの多大な功績は計り知れないものだが、創設した事業を独占せず、時期を見計らってその経営権を関係者(他人)に委ねてしまう潔さに、三井、三菱、安田、住友などの他の財閥とは一線を画する特色があった。」

 その渋沢氏の企業理念であり事業哲学と言えるのが、「論語と算盤(そろばん)」である。論語は道徳を意味し、そろばんは金儲けのことだが、この両者は相反するものではなく、人間の根本的な道徳律であると説いた。つまり、事業活動は常に道徳にかなったものでなければならず、富は不正に得てはならない。また経済活動で得た余りある富は、社会に還元すべきであるとして、それを自ら率先して実践した。論語は実践してこそ意味を為すということを貫き通す反面、時代側面によって思想を変える柔軟さもあった。
 「渋沢栄1論語の読み方」の中で、孔子が人生において最も大切にしてきたことは「仁」であると書かれている。これが孔子の生命であり、論語二十篇の血液である。孔子の生涯は仁を求めて始まり、仁を行って終わったと言っても過言ではない。孔子が言う仁とは、「思いやりの心で万人を愛するとともに、利己的欲望を抑え礼儀を履行すること」。渋沢氏は、実業界も同様に仁をもって為さなければならないと説いた。仁を持てば、工業に粗製濫造はなく、商業に詐欺違約は起こらず、商工業の道徳は自然と高まると記す。

 論語が日本に伝来したのは仏教よりも早く、5世紀頃に伝えられたと古事記に記されている。日本では、宗教というよりは道徳観や倫理観の教えとして受け入れられている。一方韓国では、李氏朝鮮が儒教を国教に制定したことで、韓国人の精神的支柱と言われる存在となった。では論語を生んだ中国はどうか。中国は社会主義思想が培われてきたため、儒教は批判や排斥の対象となっていた。しかし21世紀になって、論語が見直されているという。契約を1方的に破棄するような中国人には、是非、論語を学び、渋沢氏の言葉を肝に銘じて欲しい。

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