2013年2月4日 オピニオン » 1019号

コラム「虎視」1019号

コラム「虎視」

▼一九六八年、日本のGNPは世界第二位に躍り出る。海外はこれをジャパニーズミラクルと呼んだ。朝鮮半島や満州などに植民地を持ち、太平洋戦争を起こして連合軍に敗れ、まさに焦土と化した日本が二〇年余で著しい経済成長を遂げたからだった。定説では一九五四年から七三年までを日本経済の高度成長期と呼び、オイルショックをきっかけに安定成長に移行。九〇年代初めのバブル崩壊で近年は失われた二〇年などと呼ばれているのは周知の通り。

▼沢木耕太郎の「危機の宰相」というノンフィクション小説がある。六〇年安保後の騒然とした世情の中で首相になった池田勇人は所得倍増を唱えて高度経済成長に乗り出す。大蔵省で長く敗者だった池田と田村敏雄と下村治という三人の男たちの夢と志の結晶を、政治と経済が激突するスリリングなドラマとしてまとめたもの。六〇年代といえば日本経済の黄金時代として振り返る人が多いが、下村に代表される高度成長推進派は当時は少数派であった。

▼五九年の経済成長率は一六%という驚異的な伸び。こんな伸びが十年も続くと誰も考えなかった。ところが多数派だった安定成長論者の予見は見事に外れ、日本経済は過去に例のない高度成長を達成。いまある繁栄はこの時代の余韻?

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